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ド・ロ神父オススメの野菜「クレソン」

  

クレソン

 12月の街は、クリスマスのディスプレイやイルミネーションでキラキラしています。家族や友達とパーティーを企画している人も多いのではないでしょうか?さて今回は、そんな食卓に並ぶお皿の上に注目しましょう。メインディッシュのお肉ではなく、脇を彩る緑の野菜「クレソン」のお話です。付け合わせとして食べられずに残され、なかなか主役になれない野菜ですが、その栄養価は群を抜いています。
このクレソンを近代の日本に広めた宣教師がいました。明治12年、外海に赴任したフランス人のマルコ・マリ・ド・ロ神父です。ド・ロ神父の功績とともに、クレソンにまつわる話を探ってみました。

クレソンはフランス語

 クレソンが日本に渡ってきたのは明治の初めごろと言われています。水場を好み、繁殖力に優れた野菜ですから、すぐに日本に根付き、野生化しました。
「クレソン(cresson)」はフランス語。英語の「ウォータークレス」ではなく、フランス語で親しまれている珍しい野菜です。和名は「オランダカラシ」。鎖国時代からオランダとはゆかりの深い日本でしたので、そう呼ばれていても何ら不思議ではありません。幕末・明治にかけて、日本は欧米の列強に並ぶ国力を付けるために、兵力の増強や医学など、さまざまな分野でも、オランダに学びました。開国後、長崎製鉄所(三菱重工業(株)長崎造船所の前身)にいたオランダ人が飽の浦川(あくのうらがわ)にクレソンの種を蒔いたという話もあります。
クレソンのほかに、キャベツを「オランダ菜」、セロリを「オランダミツバ」、パセリを「オランダゼリ」、イチゴを「オランダイチゴ」と呼び、野菜の名称一つを取っても「オランダ」との縁の深さが伝わってきます。クレソンは水場を好む植物なので、「ミズカラシ」「西洋ゼリ」とも。ド・ロ神父が滞在していた外海では「ド・ロさまゼリ」と呼ばれて親しまれていました。

外海(そとめ)の産業振興に献身したド・ロ神父

外海の景色

 1868年(慶応4)、ド・ロ神父はフランスを出発して、長崎にやってきました。大浦天主堂で宗教教育の普及のための石版や木版の印刷業に取り組んでいましたが、明治12年に外海に赴任すると、地域振興に力を注ぎました。山の斜面に広がる集落には産業がなかったので、地区の経済的な自立を目指して、さまざまな西洋の技術を伝えました。今も外海には、その時代の遺産が数多く残っています。
土地を開墾して小麦を生産。パンやマカロニの製法も伝授しました。水車で製粉し、パスタのような麺をつくる作業もド・ロ神父が指導し、小麦粉と落花生の油を混ぜ合わせてつくった麺は「ド・ロさまそうめん」といわれ、外海の特産品になっています。
またド・ロ神父は、とりわけ女性の就労を促しました。染物、織物を奨励し、それを売ることで収入を得て村を豊かにしました。また、明治21年に建てられたイワシ網工場は、農民たちに副業を生み出しました。そのほかにもド・ロ神父は医療や福祉の分野でも貢献、明治16年には救助院をつくって子どもの福祉にも光を当てています。

クレソンの栄養価に注目

クレソンスープ

 もしかしたらド・ロ神父は外海の人たちの健康を考えて、クレソンを食卓に取り入れるようにすすめたのかもしれません。クレソンはヨーロッパでは古くから薬草として利用されていました。カルシウムや鉄分、ビタミンAやビタミンCが豊富で、貧血や強壮に適しています。19世紀のイギリスでは、ビタミンCの不足によって起こる壊血病の治療薬に使われていたという記録もあるほどです。
また、クレソンには血液を酸化させない効果があり、肉食が中心となっている現代の日本人にとっても注目の食材です。栄養の面だけでなく、ピリッとした辛味は肉料理にぴったり調和するので、ぜひ一緒に食べていただきたいものです。フランス人は夕食にスープを取ることはまれだといわれますが、クレソンのポタージュは食す習慣があるそうです。食味や風味が強く、個性的な野菜ですが、茎の固い部分を除いてサラダにしたり、さっとゆでて和え物にしたり、天ぷらでもおいしくいただけるのも特徴です。
クレソンのたくましい生命力とパワーを外海の人たちに与えて、地域を元気づけたド・ロ神父。わずか1本の草にも歴史があるのです。

[文:大浦由美子]

参考文献
  • 『旅する長崎学5』(長崎文献社)
  • 『長崎県の歴史散歩』(山川出版社)
  • 『花図鑑 野菜』(草土出版)
  • 『長崎県の文化財』(長崎県教育委員会)
  • 『味覚旬月』辰巳芳子(ちくま文庫)


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        • 大浦天主堂
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        • 長崎製鉄所

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