たびながコラム

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明日の世界遺産に出会う島・上五島

 

 上五島を旅していると、自然の中に溶け込むように佇む教会堂に度々出会います。その姿は木造、石造り、煉瓦造りと様々で、教会ごとに違う印象をあたえています。 新上五島町に点在するカトリック教会はなんと29。その信仰が歴史とともに静かに守り継がれていることを感じずにはいられません。自然と祈りのあるこの島に、近年、 癒しと安らぎを求めて“教会巡礼”に訪れる人も増えているようです。
さて、長崎県内には、教会堂をはじめキリスト教関連の歴史遺産が数多く残っていることはご存知のとおりですが、2007年(平成19)、文化庁は、 国連教育科学文化機関ユネスコへ提出する世界文化遺産の国内候補暫定リストに、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を掲載しました。文化庁の特別委員会は、 “西洋の建築技術と日本の伝統的建築技術の融合がもたらした質の高い造形意匠をとどめている”と評価しています。
こうして世界遺産候補となった「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」ですが、その価値を象徴する構成資産候補として、上五島の歴史ある教会堂もピックアップされているのです。

 1873年(明治6)、キリシタン禁制の高札が撤廃され、信者たちの手によって各地に次々と教会堂が建てられるようになりました。パリ外国宣教会からやってきた、 建築学の素養のある宣教師たちが教会を設計し、日本人の大工を指導したそうです。その代表とされる人物が、鉄川与助(てつかわよすけ)です。禁教のなかで密かに信仰を守り貫いたキリシタンたちの夢を、 すばらしい建築技術でかなえた人です。彼が設計した教会は30あまり、建築に携わった教会は50を越えるといいます。人生の大半を教会建築に捧げた鉄川与助ですが、自らは生涯仏教徒でした。

教会建築の先駆者「鉄川与助」

 鉄川与助は、1879年(明治12)、上五島の建設業の家に生まれました。1901年(明治34)ごろ、パリ外国宣教会のペルー神父が設計・指導した旧曽根教会の建設に、大工として参加し、初めて西洋建築と出会います。
鉄川組をつくり、冷水教会を皮切りに、1907年(明治40)以降、自ら設計・施工をおこなっています。1908年(明治41)には日本建築学准員となり、明治から昭和にかけて長崎県内を中心とした九州各地に、木造、煉瓦造り、石造り、コンクリート造りの美しく堅固な教会堂を次々とつくりました。現在、国重要文化財、県や市の有形文化財に指定されているものも少なくなく、彼が手がけた教会堂には文化財的価値が認められています。もちろん、文化財指定後も、信者の人々が集い祈りを捧げている現役の教会堂がほとんどです。

上五島の教会を訪ねて

 上五島にある29の教会を巡っていくと、どの教会にもそれぞれ独特な特長が見られます。煉瓦造りの荘厳さ、清楚な白い外観、珍しい石造りの教会などなど・・・。構造も建築素材もいろいろ異なり、内部の装飾にいたっても違う特徴や工夫が見られます。
また、教会の数だけ信徒たちの苦労があったことも忘れてはなりません。信徒たちは、貧しい生活の中から献金をしたり、女性や子どもまでもが煉瓦や石を運んだりしながら、長い年月をかけて教会の完成に力をそそぎました。

 

頭ヶ島教会

 頭ヶ島教会は、全国的にも極めて珍しい石造りの教会です。島内で切り出した石を丹念に積みあげものです。 内部装飾のモチーフに使われている花は「椿」といわれ、地域性も豊かに表現されています。

石の冷たいイメージは全くない。

石の冷たいイメージは全くない。

折り上げ天井

 特長のひとつ、折り上げ天井。 花模様をあしらい、優しい雰囲気をかもし出しています。 特異な石造りの外観とあわせ、国内の教会堂建築史上、例のない構造といわれています。1910年(明治43)に着工し、 完成まで約10年の歳月がかかりましたが、そのあいだ信徒たちは、資金集めや労働奉仕など献身的な努力を続けました。

青砂ヶ浦教会

 青砂ヶ浦教会は、高台にある赤煉瓦造りの教会です。宣教師たちは、ここ青砂ヶ浦を、迫害が終わった後の上五島の活動の拠点としました。最初の教会は山手にありましたが、1889年(明治22)に違う場所に建てかえられ、さらに1910年(明治43)、鉄川与助の設計で現在地につくられました。50戸あまりの信者が建設費を拠出し、みんなが労働奉仕をおこなったそうです。
当時は道路が整備されておらず、海辺から建設現場までの階段を歩いて、人力で石や煉瓦などの資材を運んだといいます。女性も煉瓦をかつぎ、子どもたちも小さいながらに手伝い、信徒たち全員の力によって完成した教会です。

煉瓦造りであるが、入り口の円柱やアーチなど随所に石材も用いられている 柱頭の装飾も繊細で美しく、荘厳さをかもし出している 第2次世界大戦中に没収され、奈摩地区の警戒警報として使われたアンジェラスの鐘
煉瓦造りであるが、入り口の円柱やアーチなど随所に石材も用いられている 柱頭の装飾も繊細で美しく、荘厳さをかもし出している 第2次世界大戦中に没収され、奈摩地区の警戒警報として使われたアンジェラスの鐘

 信徒たちが厳しい弾圧と激しい迫害をくぐりぬけて生活してきた土地。そこに建つ教会は、ひっそりと農業や漁業を生業として営んできた景観と一体化して、優れた文化的景観を形成しています。 さらに、想像を絶するキリスト教信徒への弾圧・迫害という歴史のなかで、消えることなく綿々と受け継がれて今に生きる信仰の姿も重なり合い、 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は世界遺産の候補として、暫定一覧表に掲載されることとなったのではないでしょうか。
上五島の教会は決して大きくもなく派手さもないけれど、訪れる人々をそっと包んでくれるような優しさがあります。癒しとやすらぎを与えてくれる上五島の教会めぐりへ、 ぜひ出かけてみませんか。

★長崎県におけるキリシタン文化の歴史については、「旅する長崎学 キリシタン文化編(全6巻)」をご覧ください。

“明日の世界遺産を訪ねる教会めぐり”〜上五島の取り組み〜

 特定非営利活動法人 新上五島町観光物産協会では、1名様からでも教会めぐりコースへの参加を受け付けています。 所要時間は約6時間です。完全予約制ですので、必ず事前に申し込みをしてください。

新上五島町の教会一覧ページへ

 また10月には「上五島教会めぐりウォーク&クルーズ」を開催しています。

教会めぐりイメージ:新上五島町観光物産協会提供
教会めぐりイメージ:
新上五島町観光物産協会提供
 秋空のもと、海・山・教会・風を感じながら上五島を満喫する2日間のイベント。 ウォーキングを楽しみながら教会をめぐります。途中、クルージングにて若松島周辺を探訪し、 船でしか渡ることができない「キリシタン洞窟」も訪れます。

 そして冬の上五島をあたたかく彩るイベント「チャーチウィーク in 上五島 教会コンサート」が、12月におこなわれます。
教会がイルミネーションで飾られ、上五島は光の島へと変わります。
それぞれの教会ごとに趣向を凝らしたイルミネーションの輝きを楽しみながら、教会を会場に開かれるコンサートに参加してみましょう。ライトアップされた静寂な教会堂に響き渡る管弦楽の音色、そして厳かな聖歌に満たされる空間は、素敵な冬のひとときを過ごさせてくれます。
チャーチウィーク in 上五島 教会コンサートイメージ:新上五島町観光物産協会提供
チャーチウィーク in 上五島
教会コンサートイメージ:
新上五島町観光物産協会提供

★新上五島町内の観光施設に行くと、教会めぐりに関するガイドブックが手に入ります。内容も充実しており、教会の開閉時間やアクセスマップ、 交通手段、駐車場台数などの情報がわかります。ただし、教会見学のマナーとして守らなければならないこともありますので、気をつけましょう。

教会巡礼のマナー
 


参考資料

・『旅する長崎学4 キリシタン文化IV』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)

・『旅する長崎学5 キリシタン文化V』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)

・『旅する長崎学6 キリシタン文化 総集編』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)

・『教会を訪ねて 新上五島町教会巡り』(特定非営利活動法人 新上五島町観光物産協会リーフレット)



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  • 鉄川与助
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