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「坂本龍馬」と「近藤勇」のSP盤レコードを聴く

「坂本龍馬」と「近藤勇」のSP盤レコードを聴く

 幕末の志士で明治維新の礎(いしずえ)を築いたといわれる坂本龍馬。今でも国民的人気を誇る龍馬は、長崎を何度か訪れたことがあります。土佐、江戸、京と並んで長崎も龍馬が足跡を残した重要な地だったのです。そこで、長崎県内で何か龍馬に関する"モノ"がないかと探していましたら、南島原市有家町山川の酒蔵「吉田屋」さんに、龍馬を題材にした珍しいSP盤レコードが残っていると聞いて、さっそく取材をさせていただくことにしました。

 南島原市は長崎県南部、島原半島の南東部に位置し、雄大な山々と美しい海をもった地域で、日本のキリシタン史的にも重要なエリアです。1580年(天正8)にキリシタン大名・有馬晴信のもと、ヨーロッパの中等教育機関「セミナリヨ」が設置されたところ〔北有馬町〕や、1637年(寛永14)の「島原の乱」の舞台となった原城跡(国指定史跡)〔南有馬町〕などがあり、その光と影の歴史を今に伝えています。

どこか懐かしい町並みと撥ね木搾りの老舗酒蔵・吉田屋

老舗酒蔵・吉田屋

 今回訪れた有家町には古い家屋や町並みが今もなお残っていました。酒造会社や醤油店、素麺(そうめん)店などの製造業が多いのが有家町の特徴です。現在これらの店鋪を活用した「蔵めぐり」や「酒蔵コンサート」などのまちおこし事業が盛んに行われているそうです。

撥ね木搾りの装置

 吉田屋は1917年(大正6)創業の老舗で、撥ね木搾り(はねぎしぼり)という技術をもちいた伝統の酒造りを行っている酒蔵です。吉田屋によると撥ね木搾りという技法は「テコの原理を応用した圧搾による酒搾りの方法で、巨大な一本の木(約8メートル)を天井からつるし、その重みとテコの原理によって微妙な圧力をかけて丁寧に搾り上げる」というもの。その製法は「まず酒袋にもろみ(発酵したお酒のもと)をつめて、槽(ふね)と呼ばれる大きな枠の中に敷き並べる。その上から蓋(ふた)をし、巨木(撥ね木)を使って圧力を掛けて搾り出す」ということでした。

筑前琵琶 坂本龍馬」と「近藤勇」のSPレコード盤の内容とは?
蓄音機

 吉田屋の店鋪は木造で、昔ながらの懐かしい雰囲気が漂っていました。希望者には酒蔵見学も実施してくれるそうです。その吉田屋の喫茶室(座敷)に古い蓄音機とSP盤レコードが保存されていました。龍馬にまつわるレコードは、ニッポノホンの「筑前琵琶 坂本龍馬(五絃)高野旭嵐(たかのきょくらん)」とニットーレコードの「近藤勇 石橋恒男 オーケストラ伴奏」の2枚です。さっそく吉田屋所有の蓄音機でレコードを回してもらい聴かせていただくことにしました。

筑前琵琶 坂本龍馬(五絃)高野旭嵐

 まずは「筑前琵琶 坂本龍馬」。その内容は、坂本龍馬の宿(近江屋)に土佐陸援隊隊長・中岡慎太郎が訪ねたところを、新撰組局長・近藤勇らが急襲し、暗殺するという龍馬最後の場面でした。龍馬暗殺の実行犯には新撰組や京都見廻組など諸説ありますが、このレコードでは、新撰組が龍馬暗殺の真犯人として描かれていました。
 筑前琵琶は明治時代に博多生れの橘旭翁(たちばなきょくおう)が創始し、絃を四絃から五絃に改良し、歌を分かりやすい七五調にして全国的なブームを起こし、日本の代表的な音曲として戦前まで親しまれていたそうです。筑前琵琶奏者の高野旭嵐は、筑前琵琶をレコードに録音し、全国に普及させた人物と言われています。

坂本龍馬のレコード用の紙袋

 もう1枚は「近藤勇」という音楽入り講談風のレコード。その内容は、左文字という刀屋が近藤勇に頼まれて「虎徹(こてつ)」という名刀を探していました。しかし2ヵ月経っても見つけることができません。左文字は気がとがめつつも虎徹ではなく無名の刀を近藤に差し出してしまいます。ほぼ同じ時刻、新撰組は清水二年坂で坂本龍馬と同士らを襲っていました。近藤は「虎徹の切れ味を試そう」と二年坂に向かって駆け出します。近藤が二年坂に到着した時には、残念ながら龍馬は逃れた後でしたが、残っていた土佐藩士を相手に近藤ひとりで切り合いをします。次々に相手を倒す近藤は「虎徹はよく切れるのう」と刀が気に入った様子。心配のあまり現場に駆けつけた左文字。近藤さんは「刀で切らず腕で切る」ので、虎徹でも無名の刀であっても関係がないのだと安堵するのでした。そして近藤は「勇はこの無名の刀気が気に入ったぞ」と最後に一言つぶやく、という物語でした。

2枚のレコードを聴き比べ。興味深い点を発見!?

 1932年(昭和7)頃から戦前にかけて発売されたこれらのレコード。内容は史実と異なり講談調のフィクションなのですが、この時代の一般人が抱いていた坂本龍馬や近藤勇の人物像が垣間見えてくるようです。2枚のレコードを聴き比べていくうちにいくつか興味深い点も発見しました。
 例えば2枚のレコードとも近藤勇の読みが <こんどういさみ> ではなく <こんどういさむ> となっているところ。坂本龍馬は <さかもとりゅうま> <さかもとりょうま> の2つの読みにそれぞれ分かれていました。時代とともに名前の読み方が変わっていくということでしょうか。もっとも最近では <こんどういさみ> と <さかもとりょうま> に統一して読まれているようです。
 もうひとつの興味深い点は、「近藤勇」のレコードの中では坂本龍馬と近藤勇が敵対関係にありながらも、その度量や剣術の技量を互いに認め合い、一目置く存在という内容になっていることです。当時は維新回天のドラマというよりも、カリスマ性のあるライバル剣豪のチャンバラドラマに比重を置いて描かれていたようですね。

 さて、2010年のNHK大河ドラマが『龍馬伝』に決まり、すでに長崎でも盛り上がりが見られます。幕末の長崎を舞台にどういう歴史上の人物たちが登場し、どういった活躍を見せてくれるのか、今から楽しみです。

[文:小川内清孝 / 取材協力:吉田屋]

参考資料
  • ニッポノホン「筑前琵琶 坂本龍馬(五絃)高野旭嵐」
  • ニットーレコード「近藤勇 石橋恒男 オーケストラ伴奏」
参考文献
  • 『旅する長崎学7 近代ものがたりI』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)
  • 『現代視点 戦国・幕末の群像 坂本龍馬』(旺文社)


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