たびながコラム

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長崎で活躍した貿易商・グラバー

〜幻のハリウッド映画化計画〜

明治日本の近代化に残した確かな足跡

グラバー園のグラバー胸像

 2009年(平成21)の今年は、トーマス・ブレーク・グラバーが長崎に来航して150年の節目の年になります。
 スコットランド出身のグラバーは、1859年(安政6)、安政の長崎開港の年に21歳の若さで来日し、同郷のK・R・マッケンジー経営の貿易支社に勤務しました。1861年(文久元)にはグラバー商会を設立。坂本龍馬らに銃や戦艦などを大量に売り、茶、絹、銀などの日本の特産品を輸出し、幕末の政治情勢にも深く関わりました。同時に、伊藤博文らの英国留学の橋渡しをするなど、日本の有望な若者たちに多大な援助をしたといわれています。

明治政府が勲二等旭日重光章を授与

ソロバン・ドック

 グラバーは幕末から明治初期の長崎で造船、採炭、製茶など幅広い事業を展開。「ソロバン・ドック」や鉄道、採炭用機器など、当時の最新技術を日本につたえました。
 1870年(明治3)のグラバー商会の倒産後は三菱の顧問となり、「ジャパン・ブルワリ・カンパニー」(のちの「キリン麦酒株式会社」)の設立にも関わりました。経済人として日本の近代科学技術導入に大きく貢献し、明治日本の近代化に確かな足跡を残したことでも知られています。
 1897年(明治30)、グラバーは東京へ転居し、三菱の顧問として余生を送りました。1908年(明治41)には明治政府が勲二等旭日重光章を贈り、その功績をたたえています。

実現直前までいった映画化計画があった!

地元紙記事

地元紙記事

 実は、1997年頃、そのグラバーを主人公にした、俳優ショーン・コネリー主演のハリウッド映画化の動きがありました。この計画は結局中止となりましたが、当時のアバディーン(スコットランド北東部の都市)の地元紙にも大きく記事が掲載されています。その幻に終わった映画化計画の詳しい経緯を、長崎市・アバディーン市のロータリークラブ トーマスグラバー奨学生(2007年〜2008年 第11回生)である峰貴之さん(長崎大学経済学部学生)にお聞きしました。
 アレクザンダー・マッカイ氏は、かつて石油会社の日本支社に勤務していた時に日本人女性と結婚し、新婚旅行で長崎市のグラバー邸を訪れ、同郷の貿易商グラバーの活躍を知ったそうです。しかし当時のアバディーンではグラバーの知名度は無名に近い状態でした。そこでマッカイ氏は、地元の人々にグラバーのことをもっと知ってもらいたいと思い、独自にグラバーの研究を始めました。
 その後、転勤でアバディーンに移ったマッカイ氏は、勤務の合間や休暇を利用してグラバーの研究を続け、1993年に『スコテッシュ サムライ』を出版、日本でも翻訳されました。この出版がきっかけとなり、アバディーンでは無名に近かったグラバーの日本での活躍ぶりと長崎との深い結びつきが市民の知るところとなり、さらには長崎とアバディーン両市の民間交流が生まれ、ロータリークラブの“トーマスグラバー奨学生の交換留学制度”が始まったのです。

地元紙記事

 その数年後、マッカイ氏が中心となり『スコテッシュ サムライ』を原作としてグラバーを主人公にした映画化が計画されました。この計画の目標はグラバーの知名度を日本でのそれと同じレベルにすることでした。マッカイ氏は、映画用の脚本をアバディーン大学教授で詩人・脚本家・小説家のアラン・スペンス氏に依頼。ハリウッドに映画化を持ちかけ、計画は撮影が始まる直前まで進んでいたそうです。グラバー役にはベテラン俳優のショーン・コネリーとユアン・マクレガー(青年時代)の起用がほぼ決まっていたといいます。しかし同時期に俳優トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』の映画化が進行中で、内容が重なる部分が大きいという理由から、残念ながらこの計画は中止となりました。こうしてグラバーが主人公のハリウッド映画化は断念され幻に終わったのです。
 その時の脚本をアラン・スペンス氏が小説(史実を題材にしたフィクション)に書き替え出版したのが『The Pure Land』というわけです。この小説は年内にも日本語訳で単行本化の予定だといいます。

グラバー主人公のドラマ化の市民活動始まる
グラバー邸

2007年(平成19)にトーマスグラバー奨学生に選ばれた峰さんは、約1ヵ月間アバディーンに留学しました。9月に帰国し長崎市長に活動報告をして、10月にオーストラリアに半年間留学し、2008年(平成20)3月に長崎へ戻ってきました。  峰さんは「アバディーンにある歴史博物館にはグラバー関係の展示コーナーがあります。アバディーンで開かれた“日本展”のパンフレットの最初のページにはグラバーの顔写真が大きく掲載されていました。しかし日本に比べるとまだまだグラバーの知名度は低いようです」と留学時の感想を話してくれました。
 ところで、幻となったハリウッド映画化計画とは別に、長崎市内でも昨年からグラバーの功績を顕彰する目的で、市民塾の活動の一環として、グラバーを大河ドラマの主人公にという動きがあります。しかしドラマ化を推進するには元になる原作が必要だろうという話になり、グラバーと同じスコットランド人の視点で描かれたものがないかと、市民塾の有志が情報を集めたそうです。そこで峰さんの留学情報から『The Pure Land』の存在を知り、アラン・スペンス氏に手紙を送り許可を得て(日本語訳の単行本化とは別に)、有志5人が約3ヵ月かけて『The Pure Land』を翻訳しました。翻訳作業には峰さんも参加しました。

The Pure Land

 この『The Pure Land』の翻訳作業中に、2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』が決まり、グラバーも重要人物として登場するという、活動の弾みとなるニュースが飛び込んできました。
 峰さんの話によると、市民塾では現在もグラバーを主人公にしたドラマ化の実現に向けて、プロジェクトを推進しています。今回翻訳したものを何らかのかたちで活用して、日本でのドラマ化や映画化実現のきっかけになればと、その活動の輪を広げているそうです。

[文:小川内清孝/取材協力・資料提供:峰貴之さん]

参考文献
  • 『明治建国の洋商 トーマス・B・グラバー始末』(内藤初穂著 アテネ書房)
  • 『旅する長崎学8 近代ものがたりII』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)
  • 『旅する長崎学9 近代ものがたりIII』(企画/長崎県 制作/長崎文献社)


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