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幕末のハイテクエンジニア・大野弁吉

幕末のハイテクエンジニア・大野弁吉

大野弁吉(中村屋弁吉)
1801年〜1870年 京都府出身 発明家・彫刻家

 みんなは“からくり人形”って見たことあるぅ?
 歯車や機械ば使ったしかけで動く人形ば見とったら、もちろん日本の伝統や歴史も感じるばってん、すごか技術やねーと驚かずにはおられんばい。からくり人形の原型は平安時代からあったらしかけど、江戸時代頃からゼンマイやネジば使って、遊びごころ満載なうえにグンと精巧になったらしかっさね。今回は、持って生まれた器用さや長崎に遊学した知識なんかば活かして、後世に数々のからくり作品を残した人、大野弁吉ば紹介すっけんね。

※からくり人形
内部にゼンマイや金属、木製の歯車などが組み合わされており、それによって様々な動作をしたり表情を変える人形のこと。
江戸時代に西洋時計の機械技術が入って以降、盛んに作られた。わずか5センチほどのものから、飛騨の高山祭の山車に見られる大掛かりなものまで、その種類は様々。

茶運び人形

盃台

 日本のダヴンチとも言われた大野弁吉は、京都の羽細工師の息子として生まれたと。長崎に最初に遊学したとは20才の頃で、数年間おったって。そのあいだに医学、理化学、天文学、数学を学んだと。また、当時の朝鮮半島の言葉ば勉強して、対馬から朝鮮半島へも渡ったらしかよ。長崎を出たあとは紀伊国(今の和歌山県)で馬術や柔術を勉強し、その後、中村屋八右衛門の娘・うたと結婚。婿養子になって、うたの実家がある加賀国大野村(今の石川県金沢市大野町)に移り、終生暮らしたとって。

飛び蛙

 金沢市にはその昔、銭屋五兵衛という豪商がおったとね。銭屋五兵衛という名前は、代々の当主が襲名する名前で、弁吉と関わるとは最後の当主・7代目たい。7代目銭屋五兵衛は、代々の当主の中でも特にやり手やったとって。そいで弁吉の才能ば見抜いとって、何かと頼りにするようになったげな。その一方で全く商売っけの無か弁吉を何かと助けたげな。そんな中で弁吉は、からくり人形や絵画、彫刻などを次々と制作したとよ。才能豊かなうえに研究熱心で、一つアイデアが浮かぶと完成するまで、2日でも3日でも仕事場にこもって、出来上がるまでご飯もろくに食べんやったって。だけん奥さんのうたは、その度に心配ばかりしなったって。でもそんだけの熱心さのおかげで、弁吉はネジば巻いてお客さんの所にお茶ば運ぶ「茶運び人形」、ぜんまいじかけでネズミが穴から出入りする「ねずみからくり」、ゼンマイと歯車と車輪の組み合わせでピョンピョン飛び跳ねる「飛び蛙」など、次々とおもしろかもんば作り出したとやろね。

ピストル

その後、弁吉は42才の時に再び長崎に遊学して、今度は写真ば勉強したとって。二回目の長崎遊学から戻った弁吉は、自分なりの研究ば重ねたごたっね。それは湿版写真で、何枚か肖像写真が残っとるらしかけど、日本に銀板写真(ダゲレオタイプ)が来る前のことやけん、やっぱりすごか人やったとね。  こがんふうに大野村で制作やら研究やら続けとった弁吉の評判は、やがて加賀藩に認められたとよ。加賀藩には当時、科学者ば集めたサロンのようなものがあって、弁吉もそこに行っとったらしか。加賀藩では弁吉の才能ばたこう(高く)評価して、藩の士分として召し抱えるという話も出たとけど、弁吉は断ってしもうたげな。なんせ名誉とか出世とかには全く興味のわかんかったごたるけんね。だけん、生涯お金持ちになることはなかったばってん、長崎での2度の遊学をとことん活かして、人を楽しませ、役に立つものば作り続け、そして研究し続けた人生は、本人にとっては満足やったろうと思うとばい。弁吉はからくり人形ばっかしじゃなか、彫刻家でもあったし、発明家ともよばれとった。エレキテルやピストル、工事用の測量機とかも作っとったらしか。そいと若か人たちに、自分の持っとる知識や技術ば伝承しとったけん、明治時代には弁吉から教えを受けた人がたくさん活躍しとるとって。
 藩からの誘いも断って大野村に住み、清貧の中で生涯ば終えた弁吉。本名の中村屋弁吉と呼ばれるより、終生暮らした大野の名前で呼ばれたことからして、弁吉がいかに地元の人々から慕われとったかがようわかるよね。こいまではあんまり目立たんかった弁吉やけど、最近はからくり人形師として、また科学者として再評価されとるとよ。よかったにゃー。

じげにゃん

 “からくり”と言えば「からくり儀右衛門」とよばれた田中久重(1799年〜1881年)も有名かよね。大企業・東芝の創業者としてもよう知られとる人ばい。大野弁吉と田中久重、同じ時代を生きた“からくり”つながりのエンジニア。それぞれ人生は違うけど、日本の技術の進歩に貢献した人たちばいね。ありがとにゃーん。
 今度は誰ば紹介しようかな。じゃあ、また次回も楽しみにしとってにゃん。

[原文:林すみこ / 切り貼り画:田中今日子]

参考文献
  • 『大野弁吉』かつおきんや著(発行/アリス館牧新社)
  • 『芸術新潮 ニッポン「モノづくり」奮闘記』山川みどり編(発行/新潮社)
  • 『長崎遊学者辞典』平松勘治著(発行/渓水社)


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