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象が行く!

長崎街道から江戸までの珍道中

 長崎の港には、世界に生息する珍しい動物がたくさんやってきました。ラクダ・ダチョウ・サル・ホロホロ鳥・虎…。はじめて見る動物に、お役人さんも長崎の人たちも大騒ぎ!そのなかでも江戸時代に日本中をアッと驚かせた「象」にクローズアップ!

日本に象がやってきた!

 江戸時代までに、異国の象が日本へとやって来たのは計7回。室町時代の1408年、若狭の国(現在の福井県)に、インド象を乗せた南蛮船が到着したのが最初です。その後、大友宗麟・豊臣秀吉・徳川家康へと各国から象のプレゼントが送られました。さて、日本中に大ブームを巻き起こしたのは、5回目の来日で長崎へと到着した2頭の象でした。徳川吉宗に献上される象は、長崎街道から江戸へと長い旅をしました。巨体を揺らす象の珍道中、どんな様子だったのでしょうか。

長崎から江戸への珍道中

 8代将軍 徳川吉宗が直々に注文した象は、発注から2年後の享保13年(1728) 6月13日、唐船に乗って長崎にやってきました。ベトナム生まれのオスとメスの2頭の象は、船上から波止場へと厳重に誘導されて、十善寺村へと移動。唐人屋敷の中で飼育されていましたが、残念ながらメスの象はまもなく死んでしまいました。翌年3月、生き残ったオスの象は、いよいよ吉宗のいる江戸へと出発します。

 象の飼育係とともに、体重が3トンもある巨体と長い鼻を揺らしながらゆっくりと長崎街道を行進しました。将軍さまに献上される象に不備があってはタイヘンと、街道沿いの宿場は大騒ぎ! 道の石・ゴミ拾いや象の飲み水・大量な食料の準備はもちろん、橋を補強したり、川にはイカダを組んだりといった作業が、全国の街道沿いで一斉におこなわれたといいます。長崎街道の木屋瀬宿(北九州市)にある宿帳には白象が泊まったという記録もあるとか。小倉の常磐橋を通過し、4月に京都へ到着。「広南従四位白象」という位を授かった象は天皇と謁見しました。

 さて、まだまだ道のりは続きます。江戸へと向かい浜御殿に到着し、吉宗と見物したのが5月。この象の旅は約1200km以上、およそ80日にわたる旅でした。その後は浜御殿(現在の浜離宮)で飼われた白象さま。はじめて見る巨大な象の飼育も大変。一日に食べる量は、米を八升、あんなしの饅頭を50個、ダイダイを50個…とペロリとたいらげる大食漢。10年以上も浜御殿で飼われていましたが、ある日、飼育係が象に殺されるという事件が起こってしまいました。払い下げになった象は、百姓の源助さんが中野に建てた象舎で世話をしましたが、江戸の見世物にされ、ちょっと悲しい余生…、1年後には死んでしまったそうです。一説によると死亡した原因は栄養失調ともいわれています。

象さまブームにみんな夢中!?

 長崎、道中、そして江戸で、異国のめずらしい象は大人気! 民衆のあいだで象さまブームが巻き起こりました。象の絵が描かれたかわら版は瞬く間に売り切れ。双六などのおもちゃや、象のキャラクターグッズ、『象志』『訓象俗談』といった象に関する雑誌も出版されました。歌舞伎の演目の一つに、ライバル同士が象を引っ張り合って力比べをする物語『象引(ぞうひき)』がありますが、これもこの頃につくられたのではないかといわれています。

 さて、現代へ・・・。毎年10月に行われる諏訪神社(長崎市)の大祭「長崎くんち」で“白象”にお目にかかることができます。踊町は7年に1度の登場となるため、毎年というわけにはいきませんが、昨年登場した桶屋町が誇る傘鉾(町の特徴を表す印として各踊町の行列を先導します)の飾り物は、白象!安永元年(1772) の製作という傘鉾は、長崎市の有形文化財に指定されるほどのお墨付きです。この白象のモチーフは、オランダ船から桶屋町の豪商へとプレゼントされた「象の時計」。象の背に乗った紅毛人が鐘を鳴らし、白象の鼻が巻き上がるという見事な時計仕掛けのカラクリになっています。このほか、小倉で夏に開催される「紫川サマーフェスティバル」では白象のモニュメントが登場したり、常磐橋の名物として白象くん饅頭が売られているそうです。街道沿いを散策すると、象にまつわるエピソードを発見することができますよ。

参考資料
  • 『舶来鳥獣図誌』 礒野直秀・内田康夫 発行/八坂書房
  • 『明治前動物渡来年表』 礒野直秀
  • 『象志 享保14年』 著者/梅英軒 長崎歴史文化博物館収蔵
  • 『文化百選 事始め編』 企画/長崎県 制作/長崎新聞社
  • 写真資料:『象志 享保14年』 著者/梅英軒 長崎歴史文化博物館収蔵


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        • 長崎歴史文化博物館
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