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人形劇『本蓮寺の南蛮井戸』

−消えた教会−

 かつて、「サンジョアンの町」と呼ばれた長崎の筑後町。 今、日蓮宗聖林山本蓮寺が建っている場所には、そのむかし、サン・ジョアン・バウチスタ教会とミゼリコルディア(慈悲)の組が運営するサン・ラザロ病院がありました。

 敷地の一角には生活に欠かせない大切な井戸がありました。 豊臣秀吉の伴天連追放令とともに下された教会の破壊命令と徳川幕府の禁教令によって、教会も病院も壊滅されてしまいますが、この南蛮井戸だけは、キリシタン時代の教会を偲ぶ遺構として現在でも大切に残されています。

 このお話を「ながさき子ども劇場」の皆さんが、人形劇『本蓮寺の南蛮井戸−消えた教会−』として上演しました。 今回は、この人形劇をとおして16〜17世紀の長崎の歴史を紹介します。

上演台本は、「ながさき子ども劇場」の許可を得て、読みやすくリメイクしています。

<台本の構成>

第一場面 「栗拾い」

第二場面 「約400年前の長崎へとタイムスリップ!?」

第三場面 「まくらがえしの間」

第四場面 「もとの時代へ戻る」

登場人物


 
第一場面 「栗拾い」

【場面】

長崎駅を降りて、向かいに見える立山の裾野一帯を筑後町といいます。 この斜面の港を見下ろす高台に日蓮宗のお寺「本蓮寺」があります。 中庭には、お寺が建立される以前からあるという約400年前の「南蛮井戸」が今なお大切に保存されています。 今回は、その井戸にまつわる歴史の物語をお話ししましょう。

季節は、紅葉の美しい秋のある朝のこと。 本蓮寺の和尚さんは、落ち葉を竹ぼうきで掃きながら庭の掃除に精を出していました。

【舞台】

和尚「皆さんおはようございます。わしゃ、見てのとおり、この寺の和尚でな。毎朝井戸のまわりを掃除して、お経をあげる事がわたしの仕事でな。 南無〜南無〜南無〜。」

男の子・女の子「おはようございまーす。」

近所の男の子と女の子が寺の裏山に向かおうとしていたところを、和尚さんがふたりを呼びとめました。

和尚「はい、おはよう。あっ 待て待て! どこへ行く?」

男の子「山だよー。」

女の子「裏山の栗の木に、栗がいっぱいなってるのー」

和尚「だめじゃ、だめじゃ。勝手にいったらいかん。それに、あぶないでのー。」

男の子「大丈夫、大丈夫! 和尚さんにも、あとで栗をあげるからねー!」

和尚さんは考えました。

和尚「はて裏山に、栗の木なんぞあったかな?」

一瞬不審に思いましたが、そう気にはとめず、ふたたび井戸の方へと向かい、お経を唱え始めました。

和尚「ホー、いい天気だ。栗拾いに行った二人の子どもたちは、大丈夫かのー。」

すると、裏山の方から和尚さんを呼ぶ子どもの声が聞こえてきました。栗拾いに行った二人が戻ってきたようです。

男の子・女の子「おしょうさまぁー、おしょうさまぁー。」

女の子「おしょうさまぁー、ほら栗よー♪」

二人は待ちきれず、崖の上から両手に持ったかごのなかの栗を和尚さんに見せます。

男の子「ホラ、ホラ、栗がいっぱいだよー♪ あっ、あっ、あーっ!」

和尚「ややっ、危ない!!」

あらあら、男の子が持っていたかごをあやまって落としてしまいました。せっかく拾った栗が、なんと和尚さんの頭をめがけてコロコロ、コロコロ。和尚さんは、目をまわしながら、井戸のそばへと倒れてしまいました。

和尚「あいたたたたたー。」

男の子・女の子「おしょうさまー!」

あわてて和尚さんのそばにかけ寄ろうとした二人も、崖から転がり落ちて、一瞬気を失ってしまいました。

男の子・女の子「あーん、痛かったー。」

イガイガのトゲがいっぱいの栗を頭からかぶった和尚さんも、井戸のそばで頭をさすりながら、

和尚「あー、いたっー。」

男の子・女の子「おしょうさま、だいじょうぶ? おしょうさまーっ。」

その瞬間、どこからともなく教会の鐘の音がカランコロンと聞こえてきました。 そして、髭を生やし胸には十字架のペンダントをした見知らぬ男性が、3人のもとへと駆け寄ってきました。

神父「シーッ!静かに。おやッ? どなたかな? どうなされた? おや、おや。擦りむいているではないか? 誰か急いで薬をもって来なさい。」

着物の女の子「はーい。」

神父「大丈夫ですか?」

しばらく気を失っていた3人は、見覚えのない周りの風景と見知らぬ人の登場に戸惑いながらも、どうにか答えました。

和尚「ありがとうございます。あれ ここはどこです? 寺は、本蓮寺はどうした?」

男の子「えっー、ここは どこ?」

女の子「ここ、どこなの?」

第二場面 「約400年前の長崎へとタイムスリップ!?」

【場面】 今から約400年前、長崎は、わが国で一番のキリシタンの町でした。 本蓮寺のあったところから長崎県庁あたりにかけては長い岬になっていました。 美しい海岸線に沿うように、教会がたくさん建ち並んでいました。 本蓮寺は、サン・ジョアン・バウチスタ教会とサン・ラザロ病院の跡に建てられたお寺です。 ここは、その教会。

和尚さんと男の子と女の子の3人は、栗がぶつかったり、崖からすべって転んだりした拍子に、井戸のそばでタイムスリップしてしまったのでした。

【舞台】

傷の手当てをしてもらった和尚さん。

神父「これでよし! 大丈夫ですか?」

着物をまとった男の子や女の子が言います。

着物の男の子「僕たちも、転んだ時はこの病院で薬をつけてもらうんだ。お腹痛いときもここに来るんだよ。」

着物の女の子「おじいちゃんやおばあちゃんもここに来て治してもらうんだよ。」

男の子「ふーん。」

女の子「ここ病院みたいだね。」

神父「ところで、この辺りでは見かけない方たちですが。まっ、いいです。一緒に朝のお祈りをいたしましょう。今日一日、みんなが元気で過ごせますように。アーメン。」

着物の男の子「あー、お腹すいた。」

着物の女の子「ご飯だ、ご飯だ!」

神父「あなたたちもどうぞ。ほかの子どもたちもお腹をすかせて待っていることでしょう。」

女の子「子どもたち?」

神父「はい。この教会には、お父さんやお母さんと一緒に暮らせない子どもたちが、みんなで生活しているのですよ。」

着物を着た男の子・女の子「神父様ぁー、はやくぅー。」

神父「はい、はい。」

すっかり変わってしまった景色と周囲の見知らぬ人たち。この不思議な現象に納得のいかない和尚さんは、神父さんを呼びとめて尋ねました。

和尚「あのぉー、この井戸は?」

神父「この教会の井戸ですよ。子どもたちがたくさんおりますので、水もたくさん必要なのです。」

「かーごめ、かーごーめ…。」教会の鐘の音が町中に響き、子どもたちが遊ぶ元気な歌声が聞こえてきました。

着物の女の子「今度は、かくれんぼして遊ぼうよ。」

木に両腕を伏せて数をかぞえはじめました。

着物の男の子「もーいいよー。」と言いながら井戸の中へと隠れます。

空がオレンジ色に染まった夕暮れに、どこからともなく、ほら貝を吹く音が聞こえてきました。

着物の男の子「アッ!南蛮船がやって来る合図よ。」

着物の女の子「南蛮船が来たー。港へ行こうー!」

和尚さんと男の子と女の子は、着物を着た子どもたちの後を追って、様子をうかがってみることにしました。

しばらくすると、テレビの時代劇で見るような服装のお役人さんがやってきて、民衆の前で徳川家康から発布されたというおふれを読み上げました。

役人「よっこらショッと。おっほん。みんなよぉーく聞けぇー。 『スペインやポルトガルから来た南蛮人は、わが国を奪って自分たちのものにしようとしている。 そのような者たちが教えるキリスト教を絶対に信じてはいけない。この命令にそむいた者には、すべてに罰をあたえる。 徳川家康。』 以上、よいか、わかったな! どっこいしょと。」

大きな声で偉そうにした役人は、その場に立て札を立てて行ってしまいました。

1614年、徳川家康は禁教令を発布して長崎に建っている教会の破壊を命じました。長崎の美しい教会が次々と焼き払われ、キリシタンたちは行き場を失っていきました。

着物の男の子「こっち、こっち。」

着物の女の子「待って。大事なものは、井戸の中へ!」

着物の男の子「大事なものは、井戸の中へ!」

子どもたちはこう言いながら、手に持っていた袋を、教会にある井戸の中へと投げ入れました。

その様子を不審に思ったお役人さんは、井戸へと駆け寄ってきました。

役人「なんだ、何をやっているんだ?」

井戸をのぞきこんで、怖い形相で追いかけてきました。

和尚さんも男の子も女の子も、お役人さんに捕まらないようにと、一目散に逃げました。

サン・ジョアン・バウチスタ教会とサン・ラザロ病院も、命令どおりに壊されてしまいました。

役人「おっほん!みんなよぉーく聞けぇー! この度、このサン・ジョアン・バウチスタ教会のあった場所に、寺を建てることになった。 村の者たちは一生懸命に働くようと、おかみからのおいいつけじゃ。寺の名前は、本蓮寺とする。」

第三場面 「まくらがえしの間」

【場面】

こうして、教会の焼けた跡地に建てられた本蓮寺。 井戸の隣の部屋「まくらがえしの間」では、夜な夜な、ある摩訶不思議なことが起こるのでした。タイムスリップしてしまった3人にも、やっぱり・・・!

【舞台】

夜の読経を終えた和尚さん、遊びつかれた子どもたちは、「まくらがえしの間」へと向かい寝床に着きました。

和尚「そろそろ寝るとしよう。」

男の子・女の子「はーい。和尚さま、おやすみなさーい。」

しばらくすると、不気味な風の音とともに、どこからかうめき声みたいなものが聞こえてきました。

和尚さんも、一緒に寝ていた男の子も女の子も恐ろしくなって、「ぎゃー。」と叫んでしまいました。

男の子「なんだ なんだ?」

女の子「なんか、今動かなかったー?」

和尚「うおー、寝ていた向きが反対になってるぞー!」

お互いをよく見ると3人とも逆向きです。

驚いた3人は「みんなだ!」と叫んで、一斉に布団にもぐり込んでしまいました。

不気味な風の音もうめき声もなかなか鳴り止みません。隣の部屋で寝ていた小僧さんも、震えながらやってきました。

小僧「この部屋、やっぱり怖いよ〜。」

男の子「エッ、なんでー?なにがー?」

女の子「ねえ、井戸のほうから何か聞こえるよ。」

そして、起きあがった3人がおそるおそる井戸に近づいてみると、落雷のように凄まじい音とともに辺り一帯がピカッと光りました。

「きゃー!」

第四場面 「現代に戻る」

【舞台】

和尚さんと男の子と女の子の3人が、最初にいた本蓮寺の井戸のそばに倒れています。 井戸のまわりには、栗が散乱しています。現代へと戻ってきたのです。 崖から滑り落ちた男の子と女の子が先に気がついて、横を見ると、和尚さんが目を回して倒れていました。

女の子「おしょうさま。しっかりしてー。」

和尚「う〜ん。あいたたたたた。」

和尚さんも気がついて、竹ぼうきを拾い、起きあがりました。

男の子「あー、びっくりした。石につまずいたみたい。」

女の子「ねえ、今、井戸の中がピカッと光らなかった?」

男の子と女の子は顔を見合わせて、おそるおそる井戸の中をのぞき込みました。でも何ともありません。

和尚「寺の栗など、取るから、ばちがあたったのじゃ。さぁさ、一緒にお参りじゃ。南無〜南無〜南無〜南無。」

男の子と女の子は、和尚さんのお経にあわせて、一緒にお参りしました。

男の子・女の子「はーい。南無〜南無〜南無。」

ずっとむか〜し、長崎がキリシタンの町だったときも、キリスト教を信じてはいけないと禁教令が出たときも、むごくて悲しい殉教の町へと変わっていったときも、原爆でなにもかもが無くなったときも、本蓮寺の井戸はその長い歴史をずっと見てきました。 そしてこれからもこの南蛮井戸は、歴史を見守っていくことでしょう。

おしまい

◎協力(台本提供、ビデオ提供・人形の写真など):ながさき子ども劇場

ながさき子ども劇場
"子どもに夢を!たくましく豊かな創造性を!!" 「ながさき子ども劇場」は、子どもたちの健やかな成長のために結成された会です。 プロの舞台鑑賞をはじめ、キャンプやあそびの会・バザーなど、みんなで企画した様々なイベントを親子で楽しんでいます。 こうした活動をとおして、子育てで悩む親や思春期で悩む子どもたちが話せる関係をつくるきっかけになったり、お互いに話し合える場になったりしながら、地域での子育て支援やネットワークづくりにも役立っているそうです。
1967年に創設した「ながさき子ども劇場」も今年で40周年を向かえ、親から子、孫へと世代を越えたつながりを大切にしながら活動しています。

所在/長崎市大黒町4-26北村第一ビル302号
お問い合わせ/TEL/095-825-0533 FAX/095-825-6151
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メールアドレス/sukisuki@bird.ocn.ne.jp
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会費/入会金…200円。1ヶ月1,300円(4歳以上)
入会の手続き/「入会申込書」に必要事項をご記入のうえ、入会金と会費を添えて、お近くの会員か事務所までお持ちください。
アクセス/JR長崎駅より徒歩で約5分。
県営バスターミナルの脇道を通り、突き当たりを右折、ナガサキストアのある北村第一ビルの3階。


うんちくバンク

人物
    歴史事件
    • 伴天連追放令と禁教令による教会破壊
    資料
      場所
      • サン・ジョアン・バウチスタ教会とサン・ラザロ病院の跡(日蓮宗聖林山 本蓮寺)
      その他
      • キリシタン時代、長崎にはどれだけの教会が建ったの?
      • 南蛮人
      • 伴天連
      • ミゼリコルディアの組

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