ながさき歴史の旅

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ながさき歴史散歩

第25回 蘭学者 吉雄耕牛

〜日本の学問をリードした蘭学〜

歴史のとびら
吉雄耕牛肖像 (長崎歴史文化博物館蔵)

 鎖国時代、唯一西洋との交易が許された長崎は、世界の情報を知ることができる「知の都」でした。日本では、出島をとおしてもたらされた西洋の最新科学や文化を研究する学問「蘭学」が生まれました。長崎で学ぶために、全国から多くの若者が訪れ、蘭学者として名高いオランダ通詞(通訳)が開く私塾の門をたたきました。遊学者のなかから優秀な人材が輩出され、日本近代化の礎となりました。

長崎遊学のススメ

 「蘭学」とは、オランダ語の書物から西洋の学問を研究することです。鎖国時代、西洋との交易が許された長崎出島のオランダ商館をとおしてオランダ語の書物が日本にもたらされました。オランダ語を習得した通訳は、出島で貿易などの業務に重要な役割を果たし、長崎奉行所の組織のひとつに「通詞」という役職で組み込まれ、世襲制で代々受け継がれました。長崎では、オランダ語の通詞を生業とする吉雄家・楢林家・本木家などが活躍していました。
 1720年(享保5)、幕府が西洋の書物の輸入を解禁すると、最先端の知識を吸収するためにオランダ人から洋書を輸入しはじめました。しかし、いくら洋書を購入しても、オランダ語がわからなければ内容を理解することができません。こうして全国から蘭学を学ぼうと多くの人々が長崎をめざしました。遊学者たちは、通詞として名高い蘭学者の私塾に通いながらオランダ語を学び、医学・天文学・本草学・地理学などのあらゆる西洋の学問を習得して、故郷の藩の発展のため、そして日本近代化のために尽くしたのです。
 今回は、オランダ大通詞として活躍し、吉雄流紅毛外科を創設した蘭学者 吉雄耕牛をご紹介します。

散歩コース

スタート地点までのアクセス

◎所要時間のめやす:約3時間

1長崎歴史文化博物館

↓徒歩で約15分

2吉雄耕牛宅跡の碑

↓徒歩で約10分

3出島和蘭商館跡

1長崎歴史文化博物館

蘭学の歴史をみてみよう

 蘭学について知りたくなったら、まずは長崎歴史文化博物館へ行ってみてはいかがでしょうか。
 博物館の2階にある常設展「歴史文化展示ゾーン」では、大航海時代から近世・近代までの長崎の海外交流の歴史を紹介しています。蘭学については「日本の近代化と長崎」のブースをご覧ください。当時、日本の学問をリードした長崎の蘭学者である吉雄耕牛や本木良永などの資料が展示されています。また、全国から長崎へとやってきた遊学者たちをまとめた「長崎遊学」のコーナーで、自分の住む県とゆかりの人たちを探すのもおもしろいです。

 また、長崎伝習所を発祥とする医学・海軍・英語・活版の技術や活躍した人物について学ぶことができる展示もありますよ。

本物の『解体新書』に出会える!!吉雄耕牛が書いた序文をチェック

 今回スポットを当てた蘭学者の吉雄耕牛は、あの有名な医学書『解体新書』の序文を書いた人なんです。当時発行されたその本も展示されていました。
 『解体新書』は、オランダのヨハン・アタン・キュルムス著『ターヘル・アナトミア』を杉田玄白らが翻訳した医学の専門書です。正確な身体の内部が精密な図説でわかりやすく書かれた本として、日本の近代医学の発展に大きく貢献しました。吉雄耕牛が書いた序文は「オランダは最先端の科学をもっています。オランダ語を習得するために長崎に来て勉強に励みますが挫折した者も多く、まして専門書を翻訳するのはとても大変なことなのです。この本を翻訳し完成させた前野良沢と杉田玄白は立派です。そして、医者を志す人たちがこの解体新書から得た知識で治療にあたれば、多くの人々の命が救われるかもしれない。」という内容だそうです。この序文の言葉から、蘭学の難しさが伝わってきます。落款の横の"吉雄永章"が耕牛の名です。

2吉雄耕牛宅跡の碑(長崎県警察本部の敷地内)

優秀な門下生を輩出した蘭学塾と住宅の跡

吉雄耕牛宅跡の碑(長崎市万才町)
吉雄耕牛肖像(長崎歴史文化博物館)

 長崎歴史文化博物館から市役所前の通りを県庁へと向かって、南西へ約15分ほど歩くと、長崎県警察本部のエントランスの前に石碑がありました。
 かつて、あごひげが特徴の吉雄耕牛が住んでいたお屋敷があった場所です。また、道路を挟んだ向かいには天文学に精通した大通詞 本木良永の屋敷があって、長崎県庁が建つところには長崎奉行所西役所がありました。

 吉雄耕牛は、オランダ大通詞として約53年間勤め、オランダ人から直接、医学、天文学、地学、本草学とあらゆるジャンルの学問を習得していきました。専門は医学で、吉雄流紅毛外科の祖となり、開いた塾には多くの人々が集まり、門弟は600人以上ともいわれます。発明家として有名な平賀源内も吉雄塾で学びました。
 耕牛の屋敷の2階には、西洋の家具や調度品でコーディネートされた「オランダ屋敷」を構えていました。日本でヨーロッパナイズドされた唯一の「洋風の間」として当時かなり話題になったようです。この屋敷ではオランダ料理を振舞う西洋風の新年パーティー「オランダ正月」がおこなわれ、蘭学について語るサロンとして多くの遊学者が訪れたといわれています。「オランダ正月」については、歴史発見コラム第50回をご覧ください。

吉雄耕牛宅があった長崎県警察本部(長崎市万才町)

 『解体新書』の翻訳を終えた前野良沢と杉田玄白は江戸からはるばる長崎へと旅立ち、原稿を持って吉雄耕牛のもとを訪ねました。前野良沢は耕牛の門下生でした。2人は自分たちが翻訳した原稿に間違いがないか耕牛に読んでもらいました。そして、玄白は「『解体新書』が完成したのは耕牛先生がいたからです。」と感謝の気持ちを込めて「『解体新書』の序文を書いてほしい」と頼んだそうです。その歴史舞台が吉雄耕牛の屋敷でした。
 『解体新書』は翻訳に3年以上の歳月をかけ、1774年(安永3)に出版されました。

楢林鎭山宅跡の碑(現・長崎県庁南門の前)

 長崎奉行西役所の周辺には、代々オランダ通詞として活躍した人たちの屋敷がありました。吉雄耕牛の屋敷の向かいには天文学を学び地動説などを紹介した本木家、長崎奉行西役所(現・県庁南門あたり 出島側)と出島(現・国史跡 出島和蘭商館跡)の間には大通詞を勤め紅毛外科楢林流の祖 楢林鎭山の住宅がありました。

楢林鎮山宅跡の碑からみる出島和蘭商館跡

 では、オランダ通詞たちが活躍した出島和蘭商館跡へと向かいましょう。県庁南門のすぐ前に見えます。

3出島和蘭商館跡

オランダ大通詞(通訳)の仕事場だった「出島」

出島和蘭商館跡

 吉雄耕牛は、通訳の仕事の傍らオランダ商館の医者バウェルやツュンベリーから医学を学び、天文学、地学、本草学の知識を吸収していきました。
 写真中央の建物が出島の表門です。橋を渡って門番に木製の許可証「出島門鑑」を見せて出入りしていたそうです。出島は、現在、国の史跡に指定され、「出島和蘭商館跡」として建物などの復元整備がおこなわれています。西側の10棟が一般公開中で当時のオランダ商館の暮らしや海外交流の歴史にふれることができます。

 オランダ語の文法が体系化されると、医学だけでなく、天文・物理といった学問を次々と吸収していき、本木良永や志筑忠雄らによって、「コペルニクスの地動説」「ニュートンの運動法則」「ケプラーの法則」などが世に紹介されました。これらの蘭学は、日本近代化の礎となって日本の未来を切り開く原動力となりました。

 「シーボルト」がオランダ商館医として長崎の出島に到着したのは、『解体新書』が発行された1774年(安永3)から約50年後の1823年(文政6)のことでした。

参考文献
  • 「旅する長崎学7 近代化ものがたり1」
    巻頭特集-第1章 「長崎蘭学」が日本の学問をリードした
    企画/長崎県 制作/長崎文献社 2007年
  • 「[新装版]解体新書」 全現代語訳/酒井シズ  発行/講談社 1998年
  • 甦る出島

スタート地点までのアクセス

長崎歴史文化博物館
所在
長崎県長崎市立山1-1-1
お問い合わせ
095-818-8366
開館時間
博物館8:30~19:00 資料閲覧室9:30~18:00 レストラン銀嶺10:30~21:00
休館日
第3火曜日(ただし、祝日の場合は翌日が休館日)
料金
おとな600円 高校生400円 小・中学生300円
駐車場
62台(有料)
アクセス
電車…
JR長崎駅で下車し、路面電車またはバスをご利用ください。
路面電車…
<長崎駅前>電停より[3番・蛍茶屋]に乗車し<桜町>で下車、徒歩約7分。
バス…
長崎バスの都心部循環[らんらんバス]に乗車し<長崎歴史文化博物館>で下車。ただし逆まわりなので、少し時間がかかります。
車…
JR長崎駅より約7分。長崎自動車道をご利用の場合は、多良見ICより長崎バイパス(西山トンネル) を経由、出口より約20分。
高速バス
--昼行便--
長崎空港から約35分(長崎バス・長崎県営バス)
佐世保から約1時間30分(長崎県営バス・西肥バス)
ハウステンボスから約1時間5分(西肥バス)
福岡から約3時間(九州急行バス)
北九州から約3時間(長崎県営バス)
大分・別府から約3時間45分(長崎バス・長崎県営バス)
熊本から約3時間(長崎県営バス)
宮崎から約5時間20分(長崎県営バス)
--夜行便--
名古屋から約12時間(長崎バス)
大阪(梅田)から約10時間10分(長崎県営バス)
京都・大阪から約11時間30分(長崎バス)
姫路・神戸から約10時間(長崎バス)
電車…
博多駅方面から[特急かもめ]に乗る!
<JR博多駅>より[特急かもめ]に乗車し、<JR長崎駅>で下車(所用時間は約2時間)。  鳥栖駅より約1時間。佐賀駅より約1時間25分。諫早駅より約20分。
*JR長崎駅からは路面電車、バスまたはタクシーをご利用下さい。
長崎方面から[快速シーサイドライナー]に乗る!
<JR佐世保駅>より[快速シーサイドライナー]に乗車し<JR長崎駅>で下車(所要時間は約1時間45分)。ハウステンボス駅より約1時間20分。大村駅より約35分。
*JR長崎駅からは路面電車、バスまたはタクシーをご利用下さい。
飛行機で長崎へ行く!
東京(羽田空港)から約1時間40分
大坂(伊丹空港)から約1時間10分
名古屋(中部)から約1時間20分
沖縄(那覇空港)から約1時間30分
宮崎から約40分
鹿児島から約35分

*各空港から<長崎空港>に着陸。長崎バスもしくは県営バスの[長崎空港線エアポートライナー・出島道路経由]に乗車し<長崎新地バスターミナル>へ約35分。

●● JR長崎駅・長崎新地バスターミナル・JR佐世保駅・空港へのアクセスは「ながさき旅ねっと アクセス」をご覧ください。


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