Mikawachi Ware

(4) Chinese Child Figurine on Top of a Blue-and-White Jug with a “Four Arts” Motif

今回は、平戸焼(江戸時代の三川内皿山で作られた焼物)の水指に見られる唐子人形の細工物をご紹介します。

 

[図1]染付四芸図水指 1853年 三川内・今村利右衛門画 総高21.0cm 長崎歴史文化博物館蔵

 

 この水指[図1]は、琴棋書画つまり琴を弾き、棋(囲碁)を打ち、書を書き、絵を描くことに興じる文人たちの姿が描かれています。琴棋書画は「四芸」とも呼ばれ、古くから中国で教養人のたしなみとされていました。中国や日本では、画題として好んで描かれていましたので、そうした影響で平戸焼の文様にも取り入れられたと思われます。口縁部に巡らされた雷文と瓔珞文(ヨウラクモン)(リンボウ文と呼ばれることもある)が、デザイン上のポイントとなり、器の表情をぐっと引き締めています。

 

[図2]同 底部

 

 この水指には、高台内に「嘉永六癸丑 初夏日 今村利右衛門正則 (花押)  六十五歳 画之」という染付の銘があります[図2]。
このことから、嘉永6年(1853)に65歳であった今村利右衛門(1788?~1864)が文様を描いたことがわかります。彼は、平戸藩御用窯の御細工人で絵付を得意としており、水指の文様が格調高いのも頷けます。

 

[図3]同 ツマミの唐子人形

 

 さて、この水指の蓋には、唐子をかたどったツマミが付けられています[図3]。
あまりにも小さいので見過ごされてしまいそうですが、よく見ると非常に手の込んだ作りとなっていて驚かされます。

 

[図4]同 顔部分

 

 この唐子は、高さ3.6cm、幅3.2cm、奥行き2.7cmと非常に小さく、平戸焼の細工物としては最小クラスといえます。
透明感のある白い磁肌で、静かに微笑んだ顔は愛らしく、笑顔による目尻のシワや笑った口元、鼻の穴までも丁寧に作られています。片目の幅は僅か2mmですが、その中には黒い眼も描かれています[図4]。

 

[図5]同 衣服部分

 

 瑠璃色の上着に目を移すと切れ込みの入った襟(エリ)には、雷文の陰刻文様があり、袖や背面には線と点で唐草などの模様が彫り込まれています。胸元や袖には襞(ヒダ)が表現され、衣服の自然な柔らかさが伝わってくるかのようです。また、ズボンにはごく薄い瑠璃釉が掛けられ、単調にならないような工夫もうかがえます[図5]。
上着の袖口からは、陰刻された黒い縞模様の袖がのぞき、黒褐色の靴には編み上げ模様が彫刻されています。小さいながらも、とても凝った衣服を身につけた人形であることがおわかりいただけるでしょう。

 

[図6]同 唐子人形側面

 

 横から見ると、頭の左右にある髪の毛に線彫りが施され、くるくると巻いてまとめた様子もよくわかります。まるで江戸後期に平戸焼でよく用いられた唐子文様からそのまま抜け出してきたような、三頭身の愛らしい姿をしています。
どの角度から見ても、立体作品として破綻することなく、唐子の可愛らしさを存分に表現した造形美にあふれている作品です。

 この唐子人形は、水指の蓋の中央に付けられた、わずか3.6cmという高さの小さなツマミにすぎませんが、幕末期における三川内皿山の細工技術の精緻さと表現力の豊かさを知ることができるとともに、当時の美意識や技術水準を示す資料としても注目すべき存在だといえます。

 

【長崎県文化振興課 松下久子】